恋愛LEVEL8 恋は純情MAXで 3

入学式から１週間が経とうとしていた。相変わらず眠気を誘う陽気はクラス中をだらけきらせていた。
「イチィ～。部活どうする？」
机に両肘を着いて文庫本に夢中になってるイチに亨輔が机にべったり寝そべりながら顔だけイチへ向ける。
―この横顔、いいね～。
ニヤついた顔をイチには見せられない亨輔はなんとかごまかしながらほくそ笑んだ。
「俺、やんない。」
予想していない答えに亨輔はガバッと起き上がる。
「なんで！！」
「バイトしたいから。」
「だからなんで！！」
あまりの質問にイチは本から視線を外して代わりに亨輔に視線を向ける。
「何でって･･･。してみたいから？」
「何で疑問系！？」
「ていうか何でそんなに切れてるんだ？お前･･･。」
図星を指され亨輔は言葉を失う。じっと見られて思わず視線を反らす。
「別に、俺なんかいなくったって部活くらい行けるだろうが」
「アホか！」そーゆー問題じゃねぇ！と言いかけて飲み込んだ。
亨輔は今までいろんな気持ちと言葉を飲み込んで来た。この高校に入るときもやっぱりこんなやり取りがあった。
高校受験の時に担任から桜池高は危ないからワンランク下げろと言われた。それをイチに言ったら「別に一緒じゃなくてもいいだろ？俺ら。」イチにしてみれば高校が別でも親友だろ？という最上級の愛情表現だった。
ところが亨輔にはこう聞こえた。『別に一緒にいてもいなくてもいいんじゃね？』と。金づちで頭を１００発以上なぐなれた衝撃だった。
結局イチが付きっきりで亨輔の勉強を見てやったおかげで無事に桜池に入学できた。
そんな事を踏まえた上で今また理解不能の事をイチは口にしていた。
「もうイイ！」
亨輔はイチに向けていた顔を反対に向ける。
「オイ！亨輔！」
言いながら机に突っ伏している亨輔の頭をチョップする。
「イテェー！」
頭を摩りながら非難の目を向ける。
「お前は部活に入れよ。せめて。」
深いため息を着く。
「なんで！！」
イチは人差し指を亨輔の目の前に立てる。
「一つ、試験ギリギリだったろうが･･･。」
「うっ･･･。」
「部活やってればとりあえず有利だ。」
コクンと頷く。更に中指を立てる。
「中坊最後まで俺と違ってレギュラーだった。」
少し照れながら頭をかく。更に薬指を立てる。
「お前には続けててほしいから。バスケ。」
最後の言葉は亨輔を決心させるには充分な言葉だった。
「わかったか！？」
切れ気味にイチは亨輔に話した。亨輔は立ち上がり少し怒っているイチに抱き着く。
「サンキュー！イチ！俺、頑張るよ！」
抱き着いた大型犬は尻尾をブンブン振り回しているのが目に見える。首に腕を回して顔を近付け事が、唯一亨輔がイチの顔に接近出来る手段だった。
「ダァーッ！なつくな！」
それでもイチは親友である亨輔がやる気になってくれた事が嬉しかった。
「亨輔、俺、今日バイト面接なんだよな。お前どうする？」
尻尾を振るのをやめて顔から少し離す。
「じゃ、俺、部活入部手続きしてくるよ。」
すっと、体を離す。離れた体は一抹の寂しさを亨輔の中に残す。
―恋人だったら･･･。
そんな事が頭を何度となくこの３年間よぎっていた。

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