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それからは智弘の視線の先には佳之がいることが多くなっていた。
見つけた先の佳之が笑顔なら智弘は安心した。辛そうな時はいてもたってもいられなくなり智弘自信がイライラしていた。
特に合同授業の体育の最中やその後の佳之はみるに耐えないほどだ。無理に笑顔を作ってはいたがやはりどこかぎこちなかった。
その感情は今まで感じた事のない感情だった。中野智弘はその感情が恋とは気付かずにいた。
そしてその恋に目覚めようとしていた。
シトシトと降り続く雨に嫌気がさしていた5時限目。
授業の終わりのチャイムがなり10分の休憩が始まった。
幸哉は隣に座る中野に教科書をしまいながら呼びかける。
「あのさ中野。」
しばらくしても返事がない。再度呼んでみる。
「中野ってば、おい!」二度目の呼びかけにやっと気がつく。
「あっ、わりい。何?」やっと反応した智弘に幸哉は少しいらついた。
「お前なぁ…最近ぼーっとしてる事多いよ。どうかしたかよ?」
幸哉の問いかけに苦笑いで答えた。
「なんか寝れなくてさ…。」
片手で前髪をかき上げる。少し前髪が伸び日焼けのせいで褐色に見える肌とその憂いからくるのか以前の少年の溌剌さがまるで感じられなくなっていた。
寝不足も手伝ってやけに色っぽい。無駄な元気さが売りの智弘は今や恋に悩む少女のようだった。
最近では朝練もサボり気味のようだ。
「で、何?」
幸哉は小さくため息をつく。
「何じゃないだろ…。今日月刊Soccerの発売で取り置きの分、どうすんだよ。取りにくんのか?」
「あっ~…、そうだった!イクイク!部活の後で。」
思い出したかのように大声を上げる。それから何かを思いふけるようにまた一点を見つめている。
とうとうそのまま動かなくなってしまった。
「なぁ~。大野。」
顔がゆっくりと俯いていく。そのままの状態で横を向いて視線だけを幸哉へ投げかける。
「誰かを抱きしめたいと思ったらそれはもう恋なのか?」
突然の質問に驚きを隠せない。目を見開いて後頭部しか見えない智弘へ顔を向ける。
「何、突然どうした?」
智弘は定まらない視線のまま幸哉を見た。
その視線は幸哉を見ていたのではなくその先を見ているようだ。明らかに様子がおかしいと感じた幸哉は智弘の肩に手を置きポンポンと叩く。
「好きな奴でもできたのか?」
幸哉はからかうでもなくただゆっくりと話し掛ける。智弘は頬を真っ赤に染め上げる。
「好きなヤツ…」
まるで覚えたての言葉のように繰り返し呟く。
「…そうだったのか。」
ぽつりと呟いて遠くをみていた視線を幸哉に合わせた。
「オレ、初めてだ。こんな変な気持ち。そうか、これが恋なのか!」
真摯な瞳は答えを見つけたようにキラリと光った。
「大野、サンキュ!」
まるで水を得た魚の様だ。さっきまでの妙な色っぽさは一瞬にして払拭された。
晴れ晴れとした顔は自分のこの原因不明の気持ちのモヤモヤがわかったことへ喜びだ。
「ふ~ん。よかったじゃん。で、相手は?」
幸哉のその言葉でたちまち智弘の気持ちと顔が一瞬にして曇る。さっきまでの妙な雰囲気に戻ってしまった。
幸哉は小さくため息をついた。それでも悩んでいる友人を放り出すわけにもいかず智弘の肩に手を置く。
「まぁ~、ここじゃなんだしバイトが終わった後でよければ話し聞くよ。ファミレスで。」
智弘はこの幸哉の申し出に感涙する。
「お前、いい奴だなぁ~。」
思わず幸哉に抱きつく。
あからさまなその態度を見ていた要の鋭い視線を感じた幸哉はやんわりと智弘を引き離した。
「なんの話しをしている?」
すぐ後ろから地獄の底から聞こえてきそうな低い声が幸哉の頭の上からしてきた。
恐る恐る振り返るとそこには腕組をし仁王立ちしている要がいた。
見れば眉を吊り上げて瞳にはありありと怒りの炎が見え、額には青筋が浮かび上がっている。
幸哉と智弘が何を話しているのかだいぶ気になっていたようだった。そこに智弘が幸哉に抱きついた事でどうやら勘忍袋の尾が切れたらしい。
幸哉はなるべく要の顔を見ないで言い訳をした。
「なんか中野の様子がおかしいから聞いてみたらどうやら、こい」
「なんでもない」
智弘は幸哉の言葉を遮った。そのまま席を立つ。
明らかに要を避けての行動に見えた。あわてて幸哉も立ち上がる。
「お、おい。中野!」
ポケットに手を突っ込んだまま幸哉にだけ視線を投げる。
「オレ、帰る」
幸哉はびっくりして中野の腕をつかむ。
「どうしたんだよ?」
今度は要に顔を向ける。
「別に。」
中野は怒りをあらわに要を睨んだ。要は中野のその視線は喧嘩を売っていると判断した。
「中野、俺に何か言いたげだな。」
睨まれた視線を100倍以上にして返した。
「別になんでもねーよ!」
「なんでもないのに人に喧嘩を売るのか?」
智弘はこの言葉に切れた。
振り返り、怒りに任せた右腕を要の顔に殴り掛かろうとしたちょうどその時、次の授業の教師が暢気な雰囲気で入って来た。
現代国語の背の低いぽちゃぽちゃした女の教師は教科書などを小脇にかかえながら入ってきてこの激闘を目の当たりにし立ち尽くした。
今まさに殴り掛かろうとしている中野をみて、小さな瞳を目一杯大きく開けて驚きの声をあげる。
「何やってんの!」
その驚きの声に我に返った中野はチッ、と小さく舌打ちをして拳を下ろした。
おもむろに机の脇にぶら下がっている鞄をひったくり駆け足で教室を後にした。
残された幸哉と要は腑に落ちないまま互いの顔を見合わせた。
廊下に飛び出した智弘は階段を2,3段降りた所で足が止まった。
そこで振り返えり再び今度はA組へ足を向けた。
智弘はA組を少し覗いてみる。窓側の前から3列目が佳之の席だ。
授業が始まりみんなが前を向いている中、佳之だけはやまない雨を眺めていた。
智弘は1年の時に佳之に教えてもらっていたアドレスを眺めていた。
何度となくメールをしようと悩んだ。その度におもい留まった。
でも今はもうそんな事はどうでもよかった。今まで悩んでた自分が馬鹿みたいに思えていた。
佳之宛のメールを短く打って送信をした。

日々妄想中!胸キュンな話を書いていけたらいいなって
思ってます。
末永いお付き合いを・・・。
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