恋愛LEVEL1 恋は叶える為にある 20

イチは両頬を頬杖つきながら幸哉の目を凝視する。
幸哉の脈がドクン、ドクンと別の生き物の様に大きく打ち始めた。さらにイチは続ける。
「確かこの間、本を拾うの手伝ってくれたのも『涼川』って言ってたよな？」
確実にイチの話術につかまった幸哉だった。この人はあっけらかんと話を始めてその実確信をズバッと着いてくる。
「で、お前ら友達？」
その裏には付き合ってんのか？という意味が含まれていそうなニュアンスで聞こえてくる。
カラカラに渇き張り付いた喉の奥が無理矢理はがされたような痛みを感じながら幸哉は答えた。
「友達ですよ。何言ってんですか。」
イチはふ～ん。といいながら目を伏せ、再びゆっくりと目を開けた。
「アイツは男が好きだって知ってるか？」
目の前が真っ暗になる。思考回路が吹っ飛びそのまま凍りつく。
―なんで、知ってる！？
「知らない、訳じゃないよな？大野。」
やたら心臓の音が大きくてイチの声が耳に入ってこない。
「お待たせしました。和風おろしハンバーグＡセットでございます。」
突然現れたウェイトレスに緊張がピークに達していた幸哉は気絶ししそうなほど驚いた。逆にその態度にウェイトレスが驚いた。イチは笑いを噛み殺す。「ごめん、ごめん。大丈夫だから。ありがとう。」と爽やかに御礼を言う。ウェイトレスは首を捻りながら一礼してその場を立ち去る。
「さぁ～、食うぞ！」
イチは固まっている幸哉を尻目にバクバクと食べ始めた。
テーブルの上には作り立てのハンバーグが湯気を立ていい匂いを振り撒いている。
「何？食べないのか？じゃ、俺が…。」
と言って腕を延ばして来た。
幸哉は延ばして来た腕を除けようともせずただ俯いていた。ハンバーグにフォークを刺そうとした時ポツリと口を開いた。
「…なんで。なんでそんな事言うんですか？」
俯いていた顔は少しだけ上にあげて非難めいた視線を向ける。
イチは腕を引っ込めてあらかた食べおわたった自分のプレートの残りのブロッコリーをフォークに刺し幸哉の目の前に差し出す。
「なんでって、お前本気じゃなさそうだから。」
ブロッコリーを自分の口に放り込み、ごちそーさん。といってドリンクを飲む。
「お前、男同士の恋愛がうまくいくとでも思ってんのか？」
心の奥底に小さな針が突き刺さる。
「お前の気持ちもわからないでもない。本当に好きだっていうなら俺は何も言わない。だってそうだろ？お前の恋愛なんだから。」
幸哉は何も言えず俯いていた。
「でも、俺は･･･。」
途切れた言葉の先は決まっていた。
「俺は、何だよ。」
顔をキッとあげてイチを睨みながら思いを込めて言い放つ。
「要の事が好きです。」
深く長いため息をつくイチは褒め称える瞳になっていた。
「なんだよ。大野。覚悟できてんじゃんか。」
幸哉の中で要への気持ちを確信した。
それにしても幸哉は何故こんなに親身になってくれるのかふと疑問に思った。いくらバイトの先輩後輩とはいえ普段ご飯を食べに行くくらいの中だ。
「イチ先輩。つかぬ事をききますがなんでそんなに親身なってくれるんですか？」
一呼吸おいてゆっくりとイチは口を開く。
「なんでって、俺も男が好きだから」
店内に響き渡る幸哉の叫びはお客を振り向かせた。振り向いたお客達はナニ？ナニ？と興味深々で振り向いている。イチは回りに頭を下げながら幸哉に視線を戻す。
「アホが！大声出すんじゃない！」
幸哉の動揺は治まらない。
「すみません。まさか俺のほかにもいるとは思わなくて･･･。」。
全てを食べ尽くしお腹をさすりながらイチは「タバコ失礼。」と言って火をつけ満足げにふかした。
放心している幸哉に諭すように話し出す。
「この世にはどうしたって男と女しか存在しないんだぜ？男が女を、女が男を、女が女を、男が男を好きになってもおかしくないと俺は思うね。まっ、俺は男でも女でも好きになっちゃえば関係ないし。あっ、ちなみに今彼氏いるし俺。」
再び叫び声をあげそうになり慌てて口を手で押さえる。
「あの、ちなみにどんな人なんです？彼氏は。」
イチは一息深くタバコを吸い入れ深く吐き出す。
「店長」
幸哉は驚きを隠せず気を失いそうだった。
目が点になりあんぐり開け放たれた口は酸素を運ぶ事もままならなくなっていた。


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